【演奏会レビュー】11月23日「オーケストラとアニメーションで楽しむ《ピーターと狼》」(寄稿:林田直樹氏) 

マイケル・スペンサー(上野学園大学 客員教授、日本フィルハーモニー交響楽団コミュニケーション・ディレクター)がナビゲーターを務める「オーケストラとアニメーションで楽しむ《ピーターと狼》」(11月23日、北とぴあ)が上演された。演奏は下野竜也指揮、上野学園大学管弦楽団。

上映された人形アニメーション映画は、スペンサー自身がコンセプトに参加し、2006年にポーランドで制作されたスージー・テンプルトン監督による作品。2008年米国アカデミー賞短編アニメ部門を受賞している。2012年にはナントや東京でのラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日音楽祭)でも取り上げられている。

そもそもプロコフィエフの「ピーターと狼」は、一筋縄で済まされる作品ではないようだ。それをただの"学習用"の幼稚なものにしてしまうか、それとも作曲者ならではの陰影に富んだ、豊かな音楽物語にできるかは、上演者の手にかかっている。

このアニメは、後者の最良の例である。ピーター少年は孤独で滅多に笑顔をみせない暗いキャラクターとして設定され、森は美しいが危険で怖く、町は悪意をはらんで寒々しい。シリアスな調子で描かれつつ、そこに救いをもたらすようにピーターの友人である身近な鳥や動物が存在する。作品中何度も登場する銃は敵意と攻撃の象徴であり、アヒルを殺した狼に対してピーターは復讐と否定ではなく理解と共存を示す結末となる。

この絵空事ではなくリアリティある芸術的アニメと音楽を、多くのファミリーに深く親しんでもらうためには、いきなり見せるのではなく、前後に工夫が必要である。

今回の公演では、最初にモーツァルトの活気ある「ハフナー」交響曲の第1、4楽章が演奏され(まず音楽、が大切)、そしてスペンサーが日本語通訳とともに作品への案内役として登場、楽曲のキャラクター描写の各部分に親しんでもらうために、クイズを出し、手や身体を動かすように自然に持ちかけ、寒い国の物語であることを想像させ、「聴いて考える」ことへと観客を誘いかけた。

つまり、高度な芸術作品の前後に、楽しくフレンドリーな雰囲気の語りかけの時間を作ったのである。これが成功であった。2012年のラ・フォル・ジュルネのときには、準備なくいきなり上映を見せられて、その暗いトーンに戸惑ったファミリーも少なからずいたようだ。しかし今回の上演の成功は、芸術作品を幅広く一般のファミリーに理解してもらうためには、それをわかりやすくするための参加型の演出のような、ひと工夫をしておかなければいけないということを教えてくれるものであった。

上質な芸術作品というものは、必ずしも、常に笑顔で語りかけてくるものではない。

しかし、その前後の枠を明朗なものへと演出しておくことで、深い芸術的メッセージに聴衆が向き合う準備をしてもらうことができる。導入と余韻を明るく楽しくしておくことで、額縁の中身を妥協せずに済む。

下野竜也指揮、上野学園大学管弦楽団の演奏も、オーケストラピットのセッティングが観客席に対して親密であったこともあって、音楽と聴衆との距離を最大限に縮めてくれる、素敵な雰囲気ある演奏になっていた。映像とのシンクロも完璧であった。

音楽の将来のために子供に目を向けることの大切さ、そのことの本気度を問われる昨今、このコンサートが示してくれたものは大きかった。この優れたアニメ映画のこうした上演が、各地で繰り返されることを望みたい。

林田直樹(音楽ジャーナリスト、評論家)

この記事に関するお問い合わせは 演奏課 (03-3842-1021) まで

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