卒業生の活躍 今井俊介さん

30年後の未来も、劇場で聴く音楽に
価値を感じてもらえる土壌を作りたい。

東京芸術劇場 事業企画課
今井俊介さん
器楽コース クラリネット専門 2016年卒業

ー大学時代はどんなことをしていましたか?

大学の中だけにとどまらず、外の空気も吸っていたい。そんなタイプでした。16歳の頃にジュニアオーケストラの仲間を集めて結成した「ラノッキオ・アンサンブル」という団体の代表も務めていて、在学中も外部で積極的に活動していましたね。はじめは20人くらいで始めたオーケストラですが、僕が大学4年の頃には80人以上に増えました。年に3回くらいは演奏会を行っており、非常に活発な団体でした。

ー大学の中ではどんな風に過ごしていましたか?

リハーサル室に籠もってひたすら練習していました。自分にとっては大学がベースの基地のような存在で、そこから外に出ていく。同期も個性的なメンバーが多く、今でも面白かったなと思い出します。先生との関係も師弟関係に留まらず、今も続いています。

ープレイヤーの立場から、現在は舞台の仕掛け人的な立場でお仕事をされていますが、転換のきっかけはあったのでしょうか?

大学4年も終わろうとしていたある冬の日、ふとYouTubeを見ていたら、偶然2013年のトニー賞のオープニングアクトの映像が流れてきたんです。8分程度の映像だったのですが、常に人を驚かせ続けるパフォーマンスで、最後には6000人もの観客が総立ちになっていました。「やりたいのはこれだ!」と思いましたね。自分が演奏して感動を生み出す源になるのではなく、その波にどれだけの人を乗せられるか。そういう仕事をしたいと。卒業間近になってずっとモヤモヤしていたんです。大学で4年間やってきて、自分の演奏はすごく悪いわけでもなければすごく良いわけでもない、という状態が続いていましたから。オーケストラの活動をするなかでも、お世話になっていたホールの方から「あなたは企画が向いている」とよく言われてはいたのですが、結局この時に観た映像が決定打になり、楽器を置いて運営側に進むことに決めました。

ー現在の職場、東京芸術劇場に入られた経緯は?

卒業間際の2月に芸術劇場で研修生の募集があり、チャンスだと思い受けてみたんです。運良くそのまま採用になり、1年間研修生として勉強することになりました。音楽と演劇の現場で濃密な1年を過ごしたあと、正式採用の試験にチャレンジし、選んでいただきました。

ーどんなお仕事をされていますか?

現在は事業企画課というところで「芸劇ウインド・オーケストラ・アカデミー」の事業担当をしています。また、貸しホールの劇場側の窓口も兼任しています。
アカデミーはいわゆる若手演奏家の育成事業。音大卒業生でプロの演奏家を目指す人をサポートするキャリアアッププログラムです。東京佼成ウインドオーケストラと上野学園大学の協力のもと、演奏技術とセルフプロデュース能力の両面を鍛えていきます。

最近力を入れているのが、東京佼成の楽団員とアカデミー生が一緒に演奏する機会を多く作ること。
プロがどのように演奏会までのプロセスを過ごしているかを体感的に学べる場を作っています。僕自身も学生時代、学内外でプロのオーケストラの方と一緒に演奏会をする機会があり、非常に勉強になりました。プロと共演すること自体が刺激的な体験ですが、違う楽器の方から指導を受けるということも、さらに大きな刺激でした。そんな学生時代の経験が、今に生きていると思っています。

ー演奏面だけでなく、セルフプロデュースも大事?

たとえばプロのオーケストラに入団することが一つの目標だとして、肝心な「自分がどんな音楽家になりたいか」をしっかりと持っていなければ、ただオーケストラに入ることが目的になり、その先のモチベーションが薄れてしまう。それでは意味がないと思うんです。もう一方で、美術系のアーティストがセルフブランディングに長けているのに比べ、音楽家は楽器を持ったキャラクターと自分というキャラクターを切り離して考えている人も多いです。でも舞台に上がる身として、自分がどんなアーティストとして見られたいかは、きちんと持っているべきだと思う。

〝個〟が魅力的で興味を持ってもらえなければ、ネットでもリアルでもさまざまなエンタメコンテンツが溢れるなかで、お客様に選んでもらうことは難しい。セルフプロデュース能力というのは、現代の音楽家にとって非常に大事なものだと考えています。

ーこれからどんな目標を持っていますか?

とてつもないスピードで動いている今の世の中。30年後はどうなっているんだろうと常に考えています。というのも30年後、自分がチケットを売れる相手がいるか?と考えた時に、正直今は顔がまったく浮かんできません。年間通して、ほぼ毎日現場に立ち、毎日数千人の人の流れを見ているなかで、若い人の顔を見ることは想像以上に少なくなっています。

これまでは年をとって余暇ができたら演奏会に行こうという層がありました。でも僕たちミレニアル世代は、ネットが身近にあるのでそもそも劇場に足を運ぶことに価値を置いていません。これは仮説ですが、このままいくと30年後に歳を重ねたから、お金があるからという理由で、往復1時間かけて劇場に足を運んで演奏を聴くことに魅力を感じる人は、たぶんいなくなると思っています。だからこそ、そうなる前に何をするべきかを、当事者である僕たちの世代が考えていかなければならない。音楽は、何万年も受け継ぎ守ってきた人類の財産。それを預かった身として、次の世代にどう伝えていくか。広い視野で見て咀嚼して、自分なりに解釈をし、自分なりの発信方法で次の方向性に導いていきたいと思います。

30年後、この芸劇のホールに今以上にお客様に来ていただけるような土壌を作ること。それが、まだ24歳の自分に重要な役割を与えてくださっている劇場への恩返しであり、音楽業界への恩返し。自分の使命だと思っています。だから、謙虚でありながらも萎縮せず、大事だと思うことは発言し、実装していきたいと思っています。

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